坂本龍一がグールドに捧げた『グレン・グールド・ギャザリング』配信開始
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(2018年9月28日更新)本作のライブレコーディング、マスタリングを務めたエンジニアのオノ セイゲンさんより、写真と併せて詳細な解説、コメントを頂きました!
こちらよりご覧ください。
2017年はカナダが産んだ孤高のピアニスト、グレン・ グールドの生誕85周年という記念の年でした。カナダのグレン・グールド・ ファウンデーションの依頼により世界各地でグールドの企画展・コンサートが開催されましたが、日本では坂本龍一さんがイベントのキュレーションを担当。坂本さんは幼少の頃からグールドに影響を受け、自身が選曲したコンピレーションCDもリリースしているほどグールドの音楽を敬愛しています。
12月にグレン・グールド関連のエキジビション、コンサートなどの融合イベント「グレン・グールド・ギャザリング」が草月ホールを中心に開催。そのハイライトであるトリビュート・コンサート「Glenn Gould―Remodels」には、ドイツで現代の電子音楽を牽引するアーティストのアルヴァ・ノト+Nilo、オーストリアのギタリストであり新たな音響の世界を切り開いてきたクリスチャン・フェネスといった、坂本さんと長年に渡り親交のある音楽家に加え、ルクセンブルクの異才、ピアニストのフランチェスコ・トリスターノが出演しました。その模様を収めたライヴ・アルバムがリリース! まさに一期一会の機会をとらえた貴重な音源です。
グレン・グールド・ギャザリング
アルヴァ・ノト + Nilo、クリスチャン・フェネス、フランチェスコ・トリスターノ、坂本龍一
AAC[320kbps] FLAC[96.0kHz/24bit] DSD(DSF)[2.8MHz/1bit]
曲目
演奏: 坂本龍一
1. Improvisation_20171215(即興)
2. 「フーガの技法」 BWV1080a~コントラプンクトゥス I / ヨハン・セバスティアン・バッハ(坂本龍一編)
3. コラール「古き年は過ぎ去りぬ」 BWV614 / ヨハン・セバスティアン・バッハ(坂本龍一編)
4. andata / 坂本龍一
5. コラール「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる」 BWV639 / ヨハン・セバスティアン・バッハ(坂本龍一編)
演奏: クリスチャン・フェネスfeat. 坂本龍一
6. ア・グランドベル・トラジディ / ヨハン・セバスティアン・バッハ(坂本龍一編)
演奏: アルヴァ・ノト + Nilo feat. 坂本龍一
7. Bach Gould redux
演奏: フランチェスコ・トリスターノ
8. パヴァン / オーランド・ギボンズ
9. フレンチ・エア / オーランド・ギボンズ
10. アルマン / オーランド・ギボンズ
11. イタリアン・グラウンド / オーランド・ギボンズ
12. グラウンド / オーランド・ギボンズ
13. 2つのピアノ小品 – 第1曲 / グレン・グールド
14. 2つのピアノ小品 – 第2曲 / グレン・グールド
15. ファンタジア ニ調 / ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク
演奏: アルヴァ・ノト+ Nilo、クリスチャン・フェネス、フランチェスコ・トリスターノ、坂本龍一
16. コーダ・フォー・グレン(世界初演) / フランチェスコ・トリスターノ
※録音:2017年12月15日~17日、草月ホール(ライヴ録音)
坂本龍一さんによるエッセイ「グールドのこと」から一部を抜粋!
そもそもグールドを知ったきっかけは、家になぜか有名な『ゴルトベルク変奏曲(BWV 988)』- J.S. バッハ のレコードがあり、後年、ビートルズに夢中になったように、グールドにいきなり夢中になったような感じです。 ぼくは夢中になるととことん真似をしたくなる人間なので、すぐにピアノの弾き方も猫背になり、指に顔を近づけてうなりながら弾くようになった。ピアノの先生にはすごい剣幕で「背中を伸ばしなさい坂本くん!」と叩かれました。
当時、グールドは日本でもすでに有名でしたが、イメージ的にはロックにおけるパンクのような、普通のクラシック音楽の愛好家には「あんなのは演奏とは言えない」と反発するむきもあったようです。なので、ピアノの先生にグールドの真似をしているなどと言うと、さらに怒られそうな気がして言えませんでした。 そう、初めてパンク精神的なものを感じたのは小学生のときに接したグールドの演奏だったのかもしれません。ちゃぶ台をひっくり返したかのような乱暴な魅力があった。その後にローリング・ストーンズにやはり同じような魅力を感じたんですが。
また、当時は情報が少なくて、レコードのジャケットの写真を穴が開くほど見つめ、ライナーノーツも熟読しました。ライナーノーツに「グールドの椅子は演奏中にぎしぎし音を立てる」などと書いてあると、さっそく自分でも演奏中に椅子がぎしぎし鳴るような動きを試してみたり。
ぼくのピアノ演奏はいまでも猫背気味で、グールドの影響が残っています。ただ腰にわるいので、最近はなるべく背中をまっすぐに伸ばすように気をつけてはいますが……。
また、ああいう猫背での演奏は、演奏的にはまず大きな音が出にくくなる。背筋をまっすぐにして上から腕を伸ばしているほうがバン!と大きい音を鳴らしやすくなります。猫背で弾くと、演奏中ずっと肩から腕まで力が入っている状態で、しかも肩をすくめているような形。肩は凝るし腰も痛くなる。その代わり指先を近くからじっと見ているので、指と脳が直結したような感覚になるのでしょう。逆に姿勢をよくして目と指の距離が離れると、そのぶん、自分の演奏も客観的に見られて指を道具的に使えるというのかな、そういう感覚になる。どちらがよいとは言えませんが、明らかに演奏に違いは出ると思います。(中略)
このように、小学生のときからグールドが好きで、ずっと彼の演奏を聴き続けています。影響もずいぶん受けました。ここで恩返しをしたいという思いがあります。
それで、どのようなイベントにしようかと考えたとき、グールドに関してはすぐれた録音はもとより、秀逸なドキュメンタリー映画や研究書が世界中にあり、これまでにずいぶん語られ研究された音楽家なので、今日あらためて新機軸のグールドの紹介というのは難しい。もしぼくがやれるとしたら、グールドの演奏や音楽に対して別の面から光を当てて魅力を伝えることではないだろうかと考えました。いうなればグールドの音楽をディコンストラクション(脱構築)する、あるいはリモデル、リワークということをする。これはいわばリミックス的なものですが、ミックスを変えるわけではないので、最近ではリモデル、リワークとぼくは呼ぶことが多い。
いままでにないグールドの紹介をする。とても軽い表現をするなら「グールドで遊んじゃおう」というものです。 そこで、今回、知り合いのアーティストに声をかけて、グレン・グールドをリモデル/リワークすることにしました。声をかけたのはまず、アルヴァ・ノトことカールステン・ニコライ(ドイツ)とクリスチャン・フェネス(オーストリア)。このふたりの音楽家は、ぼくと長年に渡ってコラボレーションを行なっている旧知の仲です。
彼らにはまず「グールドは好きか?」と問いかけました。ふたりともグールドはもちろん知っているし、大好きだとのこと。いまコンテンポラリーな音楽やアートをやっているアーティストがグールドを知らないはずはないのですが、それでも、ぼくが予想した以上にふたりともグールドへの敬愛があった。
そしてもうひとりのフランチェスコ・トリスターノは、これまで会ったことはありませんが、その作品には以前から興味を持っていました。中でもとくに、バッハが若いときにブクステフーデという当時の有名な音楽家に会うために400キロの道のりを歩いたというエピソードを元にした『Long Walk』(2012)というアルバムがおもしろかった。単純にうまいクラシックのピアニストというのではなく、とてもユニークな視点で音楽をとらえなおしている。デトロイト・テクノのアーティストと共演したりもしていて、クラシック界におもしろい人が出てきたとずっと思っていた存在。そんな彼は昨年、ぼくの『戦場のメリークリスマス』をリモデル/リワークして発表しています。ふつうのクラシックのピアニストにグールドをリモデル/リワークしてくれと言っても通じないだろうけど、彼だったらきっとおもしろがってくれるのではないかとオファーしたところ、案の定、ぜひやりたいという返事をくれました。
彼をはじめみんながどういうふうにグールドをリモデル/リワークするか非常に楽しみです。どうリモデル/リワークするかは、各アーティストの解釈で自由にやればいいし、四者四様になるでしょう。全体像が見えるのはきっとリハーサルで揃って音を出してみたときかな。とても楽しみにしています。構成:吉村栄一
―――グレン・グールド・ギャザリング(2017)フライヤーより
収録には、ソニーのハイレゾレコーディングマイクを全面的に使用
トリビュート・コンサートの会場となった草月ホールでの主な収録には、ソニーのハイレゾマイクロフォン100シリーズが使用されました。
本作品のレコーディング、ミックスは、映画「戦場のメリークリスマス」のサントラや『音楽図鑑』など、坂本龍一の名作の多くにかかわってきたオノ セイゲン氏。2台のピアノには各4本、ピアノの鍵盤から見て左手側、右手側にそれぞれC-100 をカーディオイドで使用。低音用にはECM-100U、ピアノのボトムには音響イコライザ―(試作品)を装着したECM-100Nを使用。アンビエンスマイクには、ECM-100Nを4本、ECM-100Uを4本使用。ライン入力以外のライブの模様のほぼ全ては、計16本の100シリーズを駆使し、収録されています。
本作のライブレコーディング、マスタリングを務めたエンジニアのオノ セイゲンさんより、写真と併せて詳細な解説、コメントを頂きました!
『2.8MHz DSD』は、SACD レイヤーのマスターはそのまま。『96kHz/24bit』は、CDレイヤー(44.1kHz/16bit)の元となるSequoia 14で仕上げた192kHz/32bitからのダウンコンバートである。
昨年12/15〜12/17草月ホールにてライブ3日間全5公演をDSDライブレコーディングした。即売り切れでライブに行けなかった方も、CDプレーヤーをお持ちでない方も、これで厳選された 『グレン・グールド・ギャザリング /アルヴァ・ノト、クリスチャン・フェネス、フランチェスコ・トリスターノ、坂本龍一』を体験いただける。ハイレゾで5.6MHzや11.2MHz DSDにも慣れ親しんできたが、気がつくとハイスペックになるほど、みごとに反比例して名盤がないことにお気づきだろうか?昔より機材は良くなっているはずなのに、いい録音が少ない。名盤の宝庫とも言えるSACDは、SONY DSD DAWをEMM DAC8で作られるプロオーディオの真実の「いい音」である。スペックではなく音楽を、聴け!ノイズも音楽。全て届けられるのはDSD。CD(44.1KHz 16bit)はAACより良いが、どんな現場でも96kHz/24bitは、今は標準である。
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コンサートでのマイキング―――SONYハイレゾマイクが16本
写真のように2台のピアノに4本ずつ計8本。ピアノの鍵盤から見て左手側、右手側にそれぞれC-100をカーディオイドで、低音用にはECM-1OOU、ピアノのボトムに音圧EQボールをつけたECM-100N。二人のタッチ、音色は全く違う。フォルテが鋭いフランチェスコの方が、ややオフ気味でセット。そもそも草月ホールは響きがあるクラシックのホールではない。ピアノの生音も自然に、かつシンセやシンクロしたPCからの音も、ノイズも、波音や足音などのSEもバランスよくPAを使用することを前提としたライブである。
ピアノの生のダイレクト音は近接のマイクで、メインやステージモニターからの軸上の音となるべく被りがなく、近過ぎず指向性。ピアノの音は響板からステージ床面に反射してホールにエネルギーとして拡がる、床からの初期反射は自然なピアノの音を捉えるのにとても重要で、床向きのECM-100Nには音圧EQボールをつけて狙っている。
これを機会にサイデラ・マスタリングでは、DSDライブレコーディング(ロケーション及びスタジオ)にも対応しやすいようDA-3000×12台(DSD 5.6MHz×24ch)を常設することにした。
https://tascam.jp/jp/magazines/detail/499
(編注:ピアノへのマイキングについては、本ページ上部の項も併せてご覧ください)
Biography
アルヴァ・ノトはカールステン・ニコライのサウンド・アーティスト名義。還元主義への強い執着を秘め、実験音楽を電子音楽の分野に発展させ、彼自身の象徴、音楽、そしてビジュアル的なシンボルを作りあげている。ビジュアルアーティストでもある彼の作品では、目と耳両方で知覚できる可聴周波数と光周波数のような科学現象を創り出し、人の知覚的な感覚の分断を克服しようとしている。また、「レヴェナント・蘇えりし者」の映画音楽を共作し、ゴールデングローブ賞、BAFTA、グラミー賞や放送映画評論家協会賞にノミネートされた。 今回はドイツ出身のシンガーNiloとのスペシャル・コラボで参加。
クリスチャン・フェネス Christian Fennesz
オーストリア生まれのギタリスト。自身の独特な世界感とギターの見事なまでに完璧な楽曲作りで知られている。ミュージック・コンクリート、クラシック、そしてアンビエンス・サウンドが混ざり合った彼の楽曲は、音楽の力と影響を拡大解釈し、概念的な音楽の探求と複雑なデジタル・ストラクチャによりクラシックとオーケストラのコンセプトを融合させたメロディーや空間性を生み出している。坂本龍一とのレコーディングや共演、また、キース・ロウ、スパークルホース、マイク・パットン等ともライブパフォーマンスを行っている。
フランチェスコ・トリスターノ Francesco Tristano
ルクセンブルク生まれ。ピアニストでありコンポーザー、またテクノやジャズのミュージシャンでもある。今やニュームーブメントのアイコンとなっている彼の音楽は、クラシックと電子音楽をクリエイティブに融合させ、異なる世界中の観衆を彼自身の宇宙で一体化し自然な方法で同質化する。デリック・メイ、カール・クレイグ、ミシェル・ポルタル等の様々なジャンルの著名人ともコラボをしており、2017年9月発売のソニー・クラシカル移籍第一弾となる「ピアノ・サークル・ソングス」(Piano Circle Songs featuring Chilly Gonzales)をリリース。
Curator
1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年『YMO』を結成。散開後も多方面で活躍。『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞を、『ラストエンペラー』の音楽ではアカデミーオリジナル音楽作曲賞、グラミー賞他を受賞。常に革新的なサウンドを追求する姿勢は世界的評価を得ている。環境や平和問題への言及も多く、森林保全団体「more trees」の創設、「stop rokkasho」、「NO NUKES」などの活動で脱原発を表明、音楽を通じた東北地方太平洋沖地震被災者支援活動も行っている。2017年春には8年ぶりとなるアルバム「async」を発表。
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